尖閣事件ビデオ流出について(2010.11.8)
尖閣諸島中国漁船体当たりのビデオが流出した件で、内閣も国会もマスコミも、国家の秘密に当たるビデオ映像が流出したことは、警視庁公安部の国際テロ資料がインターネットに流出した問題に続く大失態で、危機管理上の大問題だと大騒ぎし、「どうしてこんなことが起きたのか?(Why did it?)」ではなく「誰がやったのか(=犯人捜し、Who did it?)」に狂奔しています。
しかし、国家危機管理上の問題としては筋違いだと思うのです。
尖閣問題が示す日本国家危機管理上の最大の教訓は、四面海に囲まれた海洋国日本の海の守り、すなわち「海防」が戦後65年間なおざりにされ、日本の領土である離島が次々と外国に奪われている事実に鑑みて、大急ぎで領土・領海の守りを強化すべきだということではないでしょうか。
この犯人捜しの大騒ぎは、菅内閣が初動措置で犯した危機管理上の大失敗、つまり逮捕した船長を中国側からの恫喝に屈して超法規釈放したこと、そして中国側の理不尽な圧力に媚態を示して、中国漁船の不法性を立証するビデオ映像を情報統制して不公表とした菅総理、仙谷官房長官の判断ミスの責任こそが問われるべき事件でした。
マスコミもいけません。
国民が等しく見たいと思っているビデオ映像を、「国民には知る権利があり、マスコミには知らせる義務がある」と菅内閣に迫り、ビデオ公開を強く要求するべきでした。
事件当初、前原国交相(当時)が「中国漁船が『体当たり』してきたことは、ビデオを見れば一目瞭然」と記者会見で言いました。
海上保安庁もビデオ公表の準備をしていたわけです。
この前原国交相の危機管理姿勢は正しかったですし、もしその時にビデオを公表していれば、中国の反日暴動も防げたかも知れません。
この事件は、10対0で中国側の責任です。
しかし、菅・仙谷両氏は中国に対する過剰な気遣いと保身のため、刑事訴訟法を持ち出し、「裁判まで資料は不公表が原則」としたのです。
そして本来なら速やかに公開して日本国民だけでなく国際世論、そして硬化しはじめた中国の反日運動家に真実を示すべきであったのに、このビデオを「秘」扱いにしてしまいました。
しかも、前原国交相の「体当たり」を「衝突」と言葉で誤魔化し、日本にも非があるような弱腰を示したのは大失敗でした。
「公判維持上必要」と言っていた仙谷官房長官は、菅総理、前原外相がニューヨーク出張で不在の間に船長を超法規で釈放し、しかもその政治責任を「検察庁」に、それも那覇地検次席検事に押しつけ、この外交を「柳腰外交」と説明しました。
本来は、「柳」と言いたければ、この場合は「柳に雪折れなし」が正解です。
「柳腰」とは、楊貴妃、虞美人のような美女の美しい姿態を褒める言葉です。
約1年前、140余人の新人議員を含む700人で前代未聞の朝貢訪中団で訪中し、胡錦涛国家主席と1人1秒ずつ握手させてはその記念写真を撮らせた小沢一郎氏の姿、そして今回、中国の恫喝に屈して船長を釈放し、ビデオ映像の公開を禁じ、しかも反日暴動と中国政府の謝罪、賠償要求を誘発してしまった菅・仙谷外交。
もし、仙谷官房長官が腰をくねらせ低頭する遊女のごとき民主党の対中外交姿勢を表現したとすれば、それはまさにピッタリな言葉です。
ビデオ流出の「犯人捜し」の狂態は、危機管理措置を誤って尖閣諸島に中国の間接侵略を許容した形になった菅総理、仙谷官房長官が、国民の非難を国家機密漏洩の内部告発者に転じ、自分たちの責任を隠そうとする卑怯な作戦だと思います。
この作戦は、危機管理の手法として「セント・オフ(Scent off)」と呼ばれる高等戦術です。
英国では数年前まで「狐狩り」という伝統的狩猟スポーツが行われていました。
一匹の狐を荒野に逃がし、馬上の紳士淑女が多くの猟犬とともにそれを追うスポーツですが、主催者側はゲームをおもしろくするため、本物のキツネの他に、キツネの臭い(Scent)をしみこませた囮の人形(Decoy)を引きずって走らせ、「追っ手を欺く」係を設けます。
このビデオを流出させた「犯人捜し」は、国民の目を欺く囮なのです。
仙谷官房長官の老獪さを感じさせます。
「海防」を永年おろそかにしていたことについては、自民党にも責任があります。
民主党の批判ばかりしていないで、「海防」強化の具体的な政策をこそ国会で論じるべきでしょう。
「海防」強化こそ、政府、与野党、マスコミが直ちに取り組むべき優先課題です。
この点については、11月8日付産経新聞朝刊「正論」欄に一文を寄稿しましたのでお読みいただくとして、この情報漏洩者の人物像について一言述べます。
このYou Tubeへの投稿者は、大まじめな、このままでは日本はダメになる、尖閣諸島ばかりか沖縄もいずれ五星紅旗が立ってしまうと真剣に憂いた、憂国の士だと思います。
この行為の動機については、純粋で、私利私欲や私怨私憤が感じられず、煮えたぎる公憤にかられ身に降りかかるかも知れない社会的制裁を恐れず、国益のため決断をして行動した「正義の味方 月光仮面」なのだと思います。
例示が古すぎるかも知れませんが、少なくともこの人物は破廉恥罪は犯していません。
久々に登場した「国事犯」です。
菅・仙谷氏の誤れる国家危機管理上の判断は、ロシアのメドベージェフ大統領を北方四島初訪問に踏み切らせ、メドベージェフ=胡錦涛会談で中ロは対日共同強硬姿勢をとることに合意、ロシアは中国の尖閣を、中国はロシアの北方四島をそれぞれ支援し合う約束をしました。
韓国も「独島(竹島)」防衛のために鬱陵島に韓国海軍基地建設をと国会で討議し始めましたし、中国の反日暴動はプラカードなどに「沖縄は中国領土」と呼号し始めました。
韓国は次は対馬の併合を目指します。
菅総理は仙谷官房長官の責任を問い、解任すべきです。
ハンドル・ネームは「sengoku38」なっていて、中国語で「バカ」「アホ」という蔑称だとか「左派」という意味だとか、憶測が花盛りですが、「ガヴァナビリティー(被統治能力)」に秀でた賢明な日本国民は、菅・仙谷市民運動家・全共闘内閣の「ガヴァナンス(統治能力)」に重大な不信感を抱き、海上保安庁には「犯人捜しをやめよ」との電話やメールなどが100件以上きているようです。
筆者のところにも「逃がしてあげて」とか「犯人捜しばかりやって」などといったメールや電話がたくさん来ています。
菅内閣は世論に応えて犯人捜しをやめるのが賢明です。
仙谷官房長官は、調査を刑事事件の捜査に切り替えると言いましたが、世論の80%は犯人捜しを望んでいません。
だがもし、刑事捜査につながったときには、国益のため、正義のためと決意してビデオ映像を流出させた平成の「林子平」は、破廉恥犯でも世を騒がせる愉快犯でもないのですから、胸を張って堂々と潔く自首してください。
何らかの法的制裁はあるでしょうが、「なぜ?」という国民の質問に真剣に答え、国民の審判を受け、そして国防、とくに「海防」の重要性を、平和ボケの日本国民に説いて覚醒させる「国事犯」として名乗り出てほしいと思います。
私は、警視庁公安部の国際テロ情報漏洩者に対しては検察側に立ちますが、You Tubeビデオ流出者については弁護側に立ちます。
五星紅旗が翻る尖閣を見たいか(2010.9.28 産経新聞「正論」掲載論文)
菅直人首相は、尖閣諸島侵犯の中国人船長を中国の理不尽で無礼な恫喝(どうかつ)に屈して釈放、日本人を辱め、国威を失墜した。
中国皇帝の足下に跪(ひざまず)く朝貢国使節のようで、小沢一郎元幹事長の朝貢団体旅行同様、許し難い。
しかも、その突然の決定と発表は那覇地検次席検事によって行われ、仙谷由人官房長官は「捜査に当たっている那覇検察庁の独自の判断によって決定し、政府はこれを了とした」由。
訪米中の菅首相も、所管大臣の前原誠司外相も柳田稔法相も官房長官も決定には関与していない、と記者会見で平然として述べた。
≪地検任せは政治主導の自殺≫
あれだけ政治主導を高々と掲げて官僚を批判、官僚から国会答弁権も記者会見権も奪った民主党内閣が一体、どういうことか。
大阪地検特捜部主任検事、前田恒彦容疑者の証拠改竄(かいざん)事件という信じ難い暗黒司法で国民の信頼を裏切ったばかりの検察庁に、国民の安危にかかわる国家危機管理を押し付けるなどまさに政治主導の自殺行為で国民を愚弄(ぐろう)するものだ。
国家行政組織法の役割分担をどう読んでも、それは「那覇地検」の検事正でもない次席検事ごとき中級官僚の任務ではない。
それは首相以下関係閣僚の職務放棄、「敵前逃亡」であり、那覇地検次席検事の小さな背中に検事総長も含む大勢の高官が折り重なり、ひしめき合って隠れようとしている、政治風刺漫画の題材である。
恥ずべき決定は、暗黒検事を出した検事総長以下上層部の保身、生き残りのための親中派内閣への阿諛(あゆ)迎合も加わってのことか。
昔懐かしい「巨悪を眠らせない」(故伊藤栄樹検事総長)と誓った検察庁だったら、「船長釈放は政治が決め、政治の責任で発表しろ」と峻拒(しゅんきょ)したはずだから…。
≪「安保適用」の金星も無駄に≫
この日朝、前原外相は、ニューヨークでヒラリー・クリントン米国務長官から「日米安保条約第5条は尖閣諸島にも適用される」との確約を得る“金星”をあげていた。
尖閣が日中の争点になりキナ臭い情勢下、日本外交の成果だ。
昔、ビル・クリントン大統領時代のモンデール駐日米大使(元副大統領)の「適用されない」という大失言があった。
今でも、それは未解決の重大課題で、オバマ大統領もクリントン長官も対中配慮で明言を避け、鳩山由紀夫前首相は全国知事会議席上で石原慎太郎都知事に追及され、「領有権については中国と協議」「第5条の適用についてはアメリカに聞いてみる」と重大失言をし、中国側に間違ったメッセージを送っていた。
続くオバマ・菅会談でも暗黙の了解を得た。筆者は「これを後ろ盾に菅首相は対中強硬姿勢を貫くもの」と思い、拍手しかかっていたが、午後に舞台は暗転、同次席検事が「日本国民への影響と日中関係を考えて」中国人船長を釈放すると発表、落胆し激怒した。
菅首相、仙谷官房長官は政治家失格だ。中国のアジア戦略、海洋覇権国への強い願望、13億人のための資源獲得努力、特に島を領有して漁業資源や海底油田などの資源を得ようとする民族のパワープロジェクション(力の投射)が目に入らないのだろうか。その担い手たる数億人は、江沢民前国家主席時代の教育で反日感情を刷り込まれたインターネット世代で、胡錦濤現国家主席の政権もその負の遺産に困り果てている。
≪志願制で島に自衛隊駐留を≫
尖閣諸島騒動は一過性のものではなく、東シナ海、日本海への中国の脅威は今後、ますます増大すること必至だ。日本海は決して「友愛の海」などではない。
その証拠に、事態沈静化を期待し、那覇地検のせいにして船長を釈放したのに、中国はくみしやすしと見て謝罪と損害賠償を求めてきたではないか。
孫の代に日本が中国の属国にされないよう、国家危機管理の諸方策を提言する。
一、温家宝首相声明に応え、菅首相が(1)尖閣諸島は日本固有の領土(2)再発防止努力をせよ、再発すれば、また検挙(3)謝罪と損害賠償は拒否(4)武器の相互不使用-との声明を出す。
漁船体当たりビデオは公表する(親書は効果なし)
二、(執拗(しつよう)な船長釈放要求との相互主義で)駐日中国大使を呼びつけ(午前零時でなくてもよいが)、不当逮捕されたフジタ社員の即時釈放と、会議延期、官民交流禁止、レアアース輸出禁止など全報復措置の即時解除を求める
三、現在無人の(かつてかつお節工場もあり住民もいた)魚釣島(個人所有)を国有化、埠頭、ヘリポート、灯台などの諸施設を建設、志願制で自衛隊、灯台守、気象観測士などに給与倍額の僻地手当、危険手当を支給し、3カ月交代などで駐留させ実効支配を行う。
プレゼンスが主権の最大の証明で、急がないと中国人民解放軍兵士が漁民を装って上陸、五星紅旗を立てかねない情勢だ
四、海上自衛隊のイージス艦を含む一個護衛隊群を、「演習」として近隣海域に定期的に派遣し、海上保安庁を後方支援する。
中国は今や、東シナ海をも「核心的利益」を有する地域にしようとしていることを銘記すべきだ。
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有事の邦人保護は海兵隊が頼り(2010.7.28 産経新聞「正論」掲載論文)
哨戒艦撃沈事件で朝鮮半島情勢から目が離せない。
韓国は北朝鮮潜水艦による魚雷攻撃と断定し、国連に制裁を求めて提訴した。
北朝鮮は真っ向からこれを否定して「戦争状態」を宣言した。クラッパー米国防次官も北の韓国再攻撃の恐れを警告したが、核武装を急ぎ、ミサイル戦力の強化を計ることで北は、日本ばかりか米国にとっても重大な軍事的脅威になりつつある。
≪合同演習が示す米韓協調≫
オバマ米大統領は韓国を支持し胡錦濤中国主席は北をかばう。
迷走する日本をよそに米韓VS中朝の対決の構図が醸成される。
米原子力空母ジョージ・ワシントンを主力とする米韓合同の軍事演習が中国の猛反対の中、日本海と黄海で始まっている。
国防総省報道官は「米国の抑止力と韓国を防衛する確固たる義務を北朝鮮に伝え、周辺諸国に米国が朝鮮半島の平和と安定の確保に直接関与する意思があることを示すのが目的」と明言した。
この強硬路線は米国防総省(ペンタゴン)が2月に公表した「QDR(4年ごとの国防計画見直し)」に明記されている。
ホワイトハウスの対中・対北宥和策と異なり、ペンタゴンは中国を「軍事的脅威」と定義し、米日、米韓の軍事同盟の強化を説く。
米韓合同訓練はQDRを行動によって示すもので、1995年の台湾海峡危機の際の空母による対中砲艦外交以来の強硬姿勢である。
≪自衛隊が行けない韓国領で≫
これは一方で、頼りない同盟国日本に突きつけられた痛烈な不信のイエローカードでもある。
鳩山由紀夫前総理はオバマ大統領の尻馬に乗って早々と韓国支持を表明したが、菅直人総理は参院選の争点から普天間問題をはずし、朝鮮半島危機から目をそらした。
これでは日米関係は「深化」どころか不信感が「深刻化」するだけだ。]
日本海は「友愛の海」どころか対決の海になりかねない。
金正日総書記の健康状態も不安定化の要因であり、この秋にも三男の金ジョンウンに政権を世襲させるとの情報もある。
折あしく今年は日韓併合100周年、朝鮮戦争60周年に当たる。
記念日闘争を好む金総書記が若い息子を英雄に仕立てあげるべく、常識では考えられない軍事冒険を企てる危険性はないとはいえない。
「朝鮮半島有事」というとすぐ北からの数十万の難民流出を連想されるが、何よりも大切なのは在留邦人の保護・救出である。
韓国には約2万7千人の在留邦人がおり、さらに年間300万人の観光客が訪れる。
この人たちを誰が、どんな方法で救出するのか。
放置しておけば北朝鮮の捕虜となり、最悪の「大拉致問題」に発展すること必定だ。
邦人保護は主権国韓国と日本の外務省の仕事という官僚答弁も許されない。
韓国側は「釜山まで輸送する」と言っている。
釜山からの海上輸送は大島・三宅島噴火時の全島避難を成功させた海上自衛隊、海上保安庁、民間フェリーなどが任務を果たし、空のC130も役立つ。
しかし、韓国が自国の領土内に陸上自衛隊の派遣を容認する可能性は極めて低い。
米陸軍第2師団は北の侵略阻止と約6万人の米国人非戦闘員の保護で精一杯だ。
≪非戦闘員の救出作戦の提案を≫
そこで、誰も触れようとしないが、沖縄の米海兵隊の存在意義が注目される。
自衛隊が行けない韓国領土内での邦人救出は、沖縄の海兵隊に頼むしか道はないのだ。
海兵隊は世界中の戦地で非戦闘員を救出する豊富な経験がある。
佐世保を母港とする揚陸強襲艦エセックス(4万トン)は一度に数千人を運べ、インドネシア大地震やインド洋津波でも大活躍した。
普天間のヘリ60機も頼りになる。
わずか3万人で、110万人の北朝鮮軍の抑止力になるのかという声もあるが、かつて、ある在日米軍海兵隊司令官はこう語った。
「海兵隊はフィスト(拳)であり、それに腕や体(陸海空軍)がつながっている。海兵隊投入は米軍のコミットメント(意思)。だから抑止力になる。だが拳は指がバラバラでは力にならない。そこでヘノコ(辺野古への基地移転)の日米合意が必要になった」
危機管理の歴史で燦然(さんぜん)と輝く成功例は、軍隊の撤退では英
のチャーチルが指揮したダンケルクの英仏軍33万人の救出作戦、非戦闘員の救出は、アーミテージ米元国務副長官が指揮したサイゴン陥落時の作戦である。
ダンケルクの奇跡を起こしたのは、貴族所有のヨットやテムズ河のタグボート、漁船の船員ら志願者による“モスキート艦隊”だった。
もしも朝鮮有事で釜山が、独裁者の手から逃れようとする戦災難民たちの21世紀のダンケルクになったなら、アジア唯一のサミット(G8)参加国日本は、邦人だけでなく国連加盟国すべての非戦闘員の命を救う名誉ある国連人道支援のホスト国を志願すべきだ。
政治家も愚かな政争をやめ、挙国一致、国連や米韓などと協力して救出作戦を立案し、東アジアの平和回復に貢献することで、低下する日本の国際的地位を向上させよう。
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菅首相の「変成」を見定めたい(2010.6.28 産経新聞「正論」掲載論文)
筆者はドイツの国法学者フェルディナンド・ラッサールの『夜警国家論』を信奉する。
国民を守る「治安・防衛・外交」こそが国家の使命で、国家は国民を安眠させる夜回りが仕事とする所説に動かされて警察を志した。
退官後も国家危機管理体制の確立こそライフワークと決めて、浪人道を歩んだ。
ゆえに安全保障政策を欠く鳩山由紀夫・小沢一郎両氏の内閣は日本を滅ぼすと確信し、倒閣を目指した。
最大の社会福祉は良好な治安、安心と安全である。
子ども手当や高速道路の無料化では国は守れないとの思いだ。
ところが倒閣が達成されて誕生したのは、より左翼・リベラル色の強い菅直人氏の全共闘世代内閣だった。
≪よい方向への成熟ならいいが≫
サッカーのオウンゴールのような気分だが、「世論」の支持率は10%台から50~60%にV字回復という。
そして当の菅総理は「メタモルフォーゼ(変成)」を始めている。
オタマジャクシに手足が生え、尻尾が取れて蛙へと変成してゆく、あの過程である。
筆者は、第二次安保闘争で彼が東京工業大学の学生運動指導者だったころを知る。
眼中に「市民」と「社会」はあるが「国家」のない政治家が、鳩山夢想政治から政権政党としての現実路線に軌道修正を始めた。
脱小沢でクリーンを表看板にし、口蹄(こうてい)疫を「国家の危機」と認定して宮崎県の現場に急行する。
さらに駐留米軍を「抑止力」として普天間での日米合意に前向きを強調し、自民党の公約を“風よけ”に消費税10%論に言及するなど大変な変成ぶりだ。
だがそれは、市民運動家が一国の責任ある内閣総理大臣へと成熟した「健常な変成」なのか。
それとも参院選に対応するカメレオンの変色なのか。
国民はしっかり見定める必要がある。
40年の歳月と幾多の挫折の経験が彼の内面に国家指導者としてのよい「変成」が起きていれば国益に合致する。
≪手強い弁論に野党側の対応は≫
それにしても変節とも取れる現実路線への転換を正当化する弁論術は大したものだ。
拙著『わが記者会見のノウハウ』でも紹介したが、そのソフィスト的詭弁の巧みさは瞠目すべきものがある。
谷垣禎一自民党総裁はじめ野党側は、心して対応しなければならない。
かつて、エイズ薬害で土下座し、O157発生時に、カイワレ大根を試食してみせた演技力には定評がある。
今回の所信表明にしても網羅的でソツなく、しかも安保から税制までマニフェスト違反の諸問題をシレッと織り込んだ役人顔負けの演説ぶり。
「命を守りたい」と甲高い声で24回も繰り返して国民をしらけさせた鳩山演説とは段違いだった。
とくに感心したのは、学園紛争時代のことは「(恩師)永井陽之助」を盾に聴衆を煙にまいた詭弁術だ。
次々と過去の発言との矛盾を衝かれた代表質問での答弁も見事だった。
福島瑞穂社民党党首には「過去にいろいろ発言したが、9・11(テロ)など時代は変わった。社会党の村山富市総理だって一夜にして日米安保是認、自衛隊肯定に変わったではないか」と反論し、「いまのは総理としての発言」と答えた。
これは「論点・時点変更の誤謬」とよばれる詭弁術の一手法で、「過去」を否定して「現在」を正当化する鮮やかな弁論術である。
筆者も、国会で野党の追及に「過去、ご指摘のような混乱した答弁があったことは事実だが、今の私の答弁が現内閣の有権解釈である」とやって質問者を絶句させたことがある。
≪3つの質問にどう答えるか≫
「11年前、国旗国歌法に本会議で反対した菅氏には総理の資格がない」という攻撃に対しては「私は日の丸は大好きです。君が代ももう少し元気な曲がいいが嫌いではない。私は国旗に敬礼し、国歌斉唱しています」と答えた。これには二の句がつげない。しかしこれも「不可知の誤謬=論証不能(本人しかわからない)」の詭弁術なのである。
菅総理に訊きたいことは山ほどあるが、果たして、カメレオンなのか、正常な総理へ変成なのかを確かめるため、三つの質問をさせていただく。
①4月、当時の菅副総理はワシントンのアーリントン墓地に日の丸をかたどった花輪を捧げ、米側の好感を得た。
日本にも靖国神社がある。
国のために命を捧げた兵士たちを祀る神社を総理在任中は参拝しないとはダブルスタンダード(二重基準)ではないか。
秋の殉職自衛官慰霊祭には、代理ではなく本人出席するか。
②第二次安保闘争では十有余名の警察官が殉職し、1万2千人が負傷した。
後遺症で悲惨な後半生を送る人たちもいる。
全共闘世代の代表として「総括」の一言がほしい。
秋の殉職警察官慰霊祭に参列するか。
③外交での焦眉の急は中国問題だ。中国は尖閣諸島の領有を宣言、実効支配しようとしている。
「中国と協議」「アメリカにきいてみる」の鳩山外交を踏襲するのか。中国の主権侵害を放置するのか。
※ホームページへの転載にあたっては、新聞掲載の論文に新たに改行等を加えてあります。
私の鳩山内閣倒閣宣言は成れり(2010.6.2)
鳩山総理が政治倫理(政治とカネ)、安保政策の欠如(普天間)の責任をとって辞意を表明し、小沢幹事長の辞任、小林千代美議員の辞職も促したことは、日本のためになる決断でした。
明後日には代表選挙が行われる見込みとのことですが、前原誠司国交大臣が直ちに立候補することを望みます。
おそらくは菅直人副総理が後継総裁に選ばれるでしょうが、7月の参議院選でもし民主党が大敗したならば、責任を負って辞任し、前原氏の登場となってほしいと思います。
鳩山内閣発足時から私は政権への不安を指摘し、この内閣に任せてはならぬという「倒閣宣言」となりました。
その後も産経新聞「正論」欄において本年1月20日に「鳩山・小沢両はバッジをはずせ 党内の政権交代こそ改革」、4月14日に「首相は普天間に政治生命賭けよ」と論じるなど、首尾一貫倒閣を主張してきただけに、本日の総理の辞任表明は喜ばしい結果であり、「日本はまだ大丈夫」との意を強くしました。
鳩山総理は以前、「総理を辞めるときは議員を辞めるとき」と言っていました。
本日の辞任表明時にはバッジをしていなかったように見えましたが、鳩山・小沢両氏は2人とも議員をバッジをはずす(議員を辞める)べきです。
また、検察審査会は勇気をもって「小沢幹事長は起訴相当」の再決定をしてほしいと思います。
口蹄疫で見た情けない危機管理(2010.5.27 産経新聞「正論」欄掲載論文)
口蹄(こうてい)疫の蔓延(まんえん)が日本の畜産業に重大な危機を及ぼし、普天間問題についで鳩山由紀夫総理の国家危機管理の能力が問われている。
なかでも、4月20日の宮崎県における口蹄疫発生の事実を知りながら、大型連休に中南米諸国歴訪の外遊に出かけ、帰国後も現地入りが遅れた赤松広隆農林水産大臣の政治責任は重く、大きい。
≪職責の自覚を欠く記者会見≫
素直に謝ればよいのに、記者会見で「批判があるなら、野党(自民党)は議会に不信任案を出せ」「私がやったことについては全く反省するところ、お詫(わ)びをするようなことはないと思っている」と開き直った。
「防」という字が頭につく国家危機管理行政には4つの範疇(はんちゅう)がある。
「防衛」「防災」「防犯」「防疫」だが、筆者は、この大枠で、21世紀型危機管理の対象として、アルファベット表記で「W(戦争)」と「R(革命)」、さらに「ABCD」(核・バイオ・化学・天災地変)に分けて考える。口蹄疫は、鶏インフルエンザ、新型インフルエンザ、狂牛病などに続く「B(バイオ)」の危機である。
それへの対処は「防疫」の責任閣僚、つまり長妻昭厚生労働大臣と赤松農水大臣である。前出の記者会見は、その職責の自覚が欠けていることを如実に物語る無責任なものであり、速やかに撤回・取り消しをし、国民とくに畜産関係者に謝るべきものだった。
4月20日には農水省に口蹄疫対策本部を設置し、赤松大臣はその本部長だった。
同27日には、東国原英夫・宮崎県知事らが政府応援を求めて上京し、自民党の口蹄疫対策本部が共同対処を申し入れているのに、これを断り、外遊に旅立った。
出発した後に発生したのではない。
明らかに農水大臣としての危機管理上の義務を副大臣らに任せ、閣僚としての特権である華やかで楽しい9日間の中南米諸国歴訪の外遊を優先したのだ。
≪人は楽しいことに釣られる≫
人間は誰でも、楽しいことを優先し勝ちなものだ。
キューバのカストロ議長、コロンビアのウリベ大統領らと会見し、儀仗(ぎじょう)隊の栄誉礼をうけることの方が、罹患(りかん)した牛や豚をみるより楽しいに決まっている。
だが、国家危機管理の責任者は、国民の命と財産を守ることを、連休を返上してでも優先させるのが「ノーブレス・オブリージ(権力者の義務)」である。
口蹄疫がどんなに恐ろしい「B」の危機であるか、農水大臣は当然認識しているべきだ。
「知りません」「わかりません」でなんでも許されると思っている鳩山総理、小沢一郎民主党幹事長に次いで、赤松農水大臣の「KY(空気の読めない)鈍感力」は、驚くべきものだ。
中国や韓国では、今世紀初頭から口蹄疫への対応策に苦しみ、欧州、とくに英国は羊を中心に650万頭の殺処分を行っている。
筆者も、文化大革命に伴う紅衛兵暴動で政情不安に陥っていた香港で、口蹄疫騒ぎがあったときの人々の恐慌ぶりを今でも覚えている。
日本は草食・魚系の食事が主流だからまだいいのだが、肉食系の民族にとっては、それは食糧難につながりかねない重大な国家危機なのだ。
「B」の危機管理は国の仕事である。
県や市町村で対応できる問題ではないのだ。
今回、敏速に対応し、不眠不休の危機管理に従事した東国原知事の無念さは察するに余りある。
記者会見で知事は珍しく激高し、涙をにじませたが、その心の奥には現場で苦悩する畜産業者への感情移入があったのだろう。
動物好きな筆者には、丹精込め、愛情を注ぎ込んで牛や豚を育てた畜産家たちの気持ちがよくわかる。
≪連休には対応が遅れがちだ≫
半径10キロ内の牛豚を全頭殺処分にすることを決め、その補償については言を左右する赤松農水大臣をトップとする農水省の対応への、現地の関係者たちの怒りは烈(はげ)しい。
どうも今回の被害拡大は、「鬼手仏心」の精神で行うべき危機管理の初動措置の失敗による人災のように思えてならない。
韓国の農林水産食品相は4月上旬、江華島で再発した口蹄疫対策として4万9800頭を殺処分したとき、会見で「心が痛むだろうが、畜産業を守るために協力を」と呼びかけている。
一方、「ちまちましたことをやっても仕方ない。全頭殺処分だ」と記者会見し、5月25日にようやく謝罪の言葉を口にした赤松大臣の心に仏はなく、目に涙はなかった。
外遊中のゴルフプレーは誤報だったようだが、そんなおまけがつくにつけ、水産高校の練習船と米原潜の衝突事故の際にゴルフをしていた森喜朗総理への強烈なバッシングが思いだされる。
確かあの事件も連休中のことだった。
年末年始、5月の連休、夏休みは危機管理の責任者の“魔の時間”だ。
気のゆるみから緊急対応が抜け落ちることがある。
いま危機の時代と言ってもいいが、今年の連休には11人もの閣僚が不要不急の「外遊」をしたという。
閣僚諸公にはくれぐれも危機管理の責任者としての猛省を促したい。
※ホームページへの転載にあたっては、新聞掲載の論文に新たに改行等を加えてあります。
日本近海で活動する中国艦隊は、現代の「定遠」「鎮遠」(2010.4.23)
潜水艦2隻と補給艦まで連ねた10隻の中国艦隊が、沖縄近海を通り、沖ノ鳥島周辺を回航して、日本の排他的経済水域を游弋している。
この数日前、東シナ海では、監視しているわが国の海上自衛隊護衛艦の約90メートルの至近距離まで偵察ヘリを飛ばして挑発した。
しかし、鳩山内閣の反応は恐ろしく鈍い。
外務省も防衛省も、対中朝貢外交の小沢一郎幹事長や鳩山総理、菅副総理、「東アジア共同体論」の岡田外相に気を遣ってか、強い抗議姿勢をとろうとしない。
これは、明らかに外洋海軍を目指す中国の艦隊の遠洋航海訓練で、普天間問題等で亀裂の入った日米同盟の劣化度をテストするための「瀬踏み」であり、独立主権国家として放置してはならない、中国の対日砲艦外交である。
日清戦争前、清国の李鴻章は、丁汝昌提督率いる北洋艦隊の巨大装甲戦艦「定遠」と「鎮遠」を親善訪問の名の下に日本に派遣し、各港を歴訪させて軍事的恫喝を加える「砲艦外交」を展開した。
維新後間もない日本は、この「定遠」「鎮遠」に手も足も出なかった。
奮起した明治政府は、国民挙げて海軍力増強のための建艦計画を強行した。帝国議会の烈しい反発を受けたが、明治天皇が御手許金(宮廷費)の10%を下賜したため国民も納得した。
その後日本海軍は、黄海海戦でなんとか「定遠」「鎮遠」に火災を起こさせて辛勝した。
この「定遠」「鎮遠」に対する当時の日本国民の愛国心の高揚ぶりは、軍歌「勇敢なる水兵」に残されている。
重傷を負った水兵が通りかかった副長に「マダ沈マズヤ定遠ハ」と呼びかけ、副長は「心安カレ定遠は戦イ難クナシハテキ」と末期の水の代わりに嘘をつき、水兵は安堵して息絶えたというくだりがある。
国興るときの国民の気概とは、こういうものだ。
亡国の鳩山内閣の中国艦隊への卑屈さと比べると、本当に哀しくなる。
鳩山内閣の「鈍感力」もさることながら、マスコミの姿勢も首をかしげざるを得ない。
沖ノ鳥島は「岩礁」であって日本の島ではないとする中国の主張を黙認するようであってはならない。
沖ノ鳥島には、わが国による護岸工事や灯台設置が行われ、昨年には港湾施設の建設方針も決定されている。石原慎太郎都知事も、日本領土として上陸し日章旗を掲げてみせた。
岩礁に非ず、日本の「領土」である。
北方四島、尖閣列島、韓国に実力占拠されている竹島など、日本国民はそれが将来の資源獲得競争の中盤戦であることを認識すべきだ。
12海里の領海と200海里の排他的経済水域の海底には、未知の資源が眠っている。
漁業権だけの問題ではない。
現在68億人という世界の人口は、2050年には90億人に達すると推計されている中、食糧をはじめ、資源にも限りがある。
海底の資源が大問題になる日は、そう遠くない。
中国艦隊の狙いは、海底資源確保のための瀬踏みであることも明らかだ。
鳩山内閣は、直ちに中国に厳重抗議し、艦隊の退去を求めるため海上自衛隊一個護衛群(8隻)を急派して「砲艦外交」には屈しないという気概を示すべきだ。
「ルーピー」だと自ら認めた鳩山総理(2010.4.23)
核安全保障サミット会議晩餐会の際、オバマ大統領と「10分間のチャット(雑談)」をした鳩山総理は、米国の『ワシントン・ポスト』紙上で「最大の敗北者」「ルーピー(loopy)な総理」と罵倒された。
「トラスト・ミーと私に言ったのに、きちんとやり遂げられるのか?(Can you follow through?)」というオバマ大統領の発言も、一国のしかも同盟国の総理としては辱めを受けたと感じるべきなのに、「鈍感力」に優れた鳩山総理はあまりこたえなかったようだ。
「ルーピー」という表現は、不敏にして私は初めて聞いた。
アメリカには「バカ」とか「気がヘン」といった表現はたくさんある。
「フール」「クレージー」「ステューピド」「インセイン」「クラックポット」「ア・カインド・オブ・スロー」などなど・・・。
だが、『ワシントン・ポスト』に乗った「ルーピー」という単語は知らなかった。
そこで、さっそく米国の友人に電話をかけ、その言葉の軽蔑度、失礼加減、使用頻度などを尋ねてみたところ、返ってきた答えは、
「あまり使われていない」
「一流の新聞が同盟国の首相に用いるべきではない蔑称」
「語源はループ(loop=グルグル際限なく空回りする輪)で、その形容詞形。決断をせず、優柔不断で、いつまでたっても決まらない堂々巡りをする人」。
つまり、日本語で言えば「愚図」「クルクル・パー」ということのようだ。
何とも哀しい、国辱ものの批判である。
それなのに、4月20日に行われた国会の党首討論の場で谷垣自民党総裁がこの記事のことに触れると、あろうことか、鳩山総理は「私は愚かな総理かも知れない」と、怒ってアメリカに抗議するどころか認めてしまい、谷垣総裁を愕然とさせ、テレビの前の国民を唖然とさせた。
そして普天間問題について、まだ「腹案あり」と大見得を切り、「地元よりはまずアメリカの同意を得る」「五月末には五月晴れの決着を」と、自ら退路を断ったのである。
普天間問題は、完全に鳩山総理の責任である。
すでに合意に至っていた国家間の約束について、「県民の気持ちを」などと言ったことで寝た子を起こし、その後も候補地について沖縄県内、徳之島と軽々しい言動を繰り返す。
あちこちに自分で火をつけてまわり、とうとうその火が自分の尻に移って走り回っている今の姿は、まるで「カチカチ山の狸」のようで、ほとんど漫画である。
日本国民は、どうやら総理にしてはいけない「ルーピー」を(間接的ではあるが)総理に選んでしまったようだ。
1億2000万の日本国民の命を、こんな「ルーピー」には任せられない。
五月末で普天間が不首尾の時は、本人が約束した通り政治責任をとって辞めてもらおう。
そのときは、「政治とカネ」の責任も併せて負って、自らを罰し、小沢幹事長も罰し、石川・小林両議員にもバッジをはずさせ、「飛ぶ鳥後を濁さず」「晩節を汚さず」のたとえ通り辞めてもらいたい。
また、米国では、オバマ大統領は「胡錦涛中国国家主席と90分のディープ・ディスカッション」「鳩山総理とは10分のチャッティング」と報じたそうだ。
日本の国際的地位、格付けも下がったものだ。
本当に、寂しく、哀しい。
首相は普天間に政治生命賭けよ(2010.4.14産経新聞「正論」欄掲載論文)
先日の党首討論で谷垣禎一自民党総裁の追及に、鳩山由紀夫総理は突然、「普天間は5月末までに命賭けで体当たりで行動します」と大見得(みえ)を切った。
「命を賭した」ことなど多分一度もなく、普天間問題で覚悟らしきものが見えない鳩山総理が軽々しく口にすべき言葉ではない。
それは、ことが不首尾に終わったとき切腹をしてでも責任を負う武士の一言(紳士の場合でも)である。
あの時、鳩山総理は「5月末の普天間に『政治生命』を賭けます」と言うべきだった。
≪為政者の基本心得はあるのか≫
なんとも言葉が軽すぎる。
理工系出身だから中国(漢書)の「綸言(りんげん)汗ノ如シ」という帝王学の教えを知らないのかもしれない。
「帝王が口にした言葉は、出た汗は体内に戻らないように撤回や取り消しできないから、言葉を選べ」という為政者の基本心得である。
党首討論で大言壮語した「現行案と同等かそれ以上の『腹案』が不成功に終わったとき」は、自分の発言に責任をとって、総理大臣を辞職すべきである。
本気で自決してしまっても、日米同盟の弱体化、米軍の普天間継続使用、沖縄県民の反基地闘争再燃という最悪の事態は解決されない。
だから政治不信の最大原因である「政治とカネ」を根絶するため、せめて、「平成の脱税王」の自らを罰するとともに、小沢一郎(幹事長)、石川知裕、小林千代美の3議員を民主党党規の重大違反者として除名処分とし、後を司直の手に委ねることだ。
「泣イテ馬謖(ばしょく)ヲ斬ル」という。
理工系でも「三国志」はお読みと思うが、蜀の諸葛亮孔明が忠臣馬謖に敗戦責任を負わせて処刑する帝王学の心得である。
≪まず腐ったリンゴは樽の外に≫
組織防衛上の危機管理原則の一つに「腐ったリンゴは樽(たる)から出せ」がある。
然(しか)るに、鳩山氏、小沢氏のツートップが腐ったリンゴだから、他の議員らを処分できない。
逆に、諫言(かんげん)した「良いリンゴ」生方幸夫副幹事長を樽から出し、世論の反発を買った。あわてて元の樽に戻す醜態を晒(さら)した。
花見などで人々が集まっても、「日本は大丈夫?」と語り合うのが時候の挨拶(あいさつ)代わりになった。
小沢氏の私邸は機動隊の厳重警戒だ。
「永田町の謎の鳥」などというブラックジョークがネット上を飛び交い、「本人はハトだと主張するが、私には日本のガン(雁・癌)にみえる」と揶揄(やゆ)される。
税金の確定申告のスタートでは、国会で「平成の脱税王」と罵(ののし)られた鳩山総理本人がテレビで納税者に「当然、税金を払っていただき…」と呼びかけた。まるでパロディーそのものだ。
ただでさえ、やり場のない怒りに燃えた国民の納税意欲が阻喪している。
その不満から、政界の第三極を目指す新党に目が向き始めた。
現在の状況は、大々的な反税運動に発展した、かつてのフランスの「プジャード運動」を連想させる。
1950年、アフリカの植民地を放棄したドゴール将軍らに極右中産階級が怒った。そ
れを率いた文房具店主、ピエール・プジャードが起こした納税拒否運動である。
「国民戦線(フロン・ナシオナル)」を結成し、一時は国会で52議席を獲得し、今もルペン氏を党首とする右翼民族主義政党として存続している。
日本の国民の怒りが同じような道程を辿(たど)らないと誰が言えるか。
≪不用意発言が民主党迷走さす≫
鳩山総理のKY(空気の読めなさ)ぶりはひどい。
官邸で国民と対話する茶話会形式の「リアル鳩カフェ」には派手なシャツで登場し焼きそばを料理してみせた。
だが皮肉なことに、新聞各紙は、最新の世論調査結果を報じていて違和感が紙面にみなぎっていた。
ある調査では、「小沢幹事長辞めよ」が81%、「普天間5月未決着なら退陣を」47%、「鳩山内閣不支持」56%とあった。理由は「指導力なし」が44%、鳩山支持のうち「指導力があるから」としたのは僅(わず)か1・1%だった。
「民主党に失望」は69%に達した。国民は、民主党大勝で間接的にではあるが、鳩山内閣を誕生させた。
その投票行動を反省し始めている。
「もしかして総理にしてはいけない人物を…」。
鳩山氏の資質への疑念の声だ。
週刊誌の新聞広告には「鳩山さん、気は確かですか」との見出しが踊る。
史上これほど言われた総理はいまい。
総理の軽々しい不用意発言が民主党そのものを迷走させたのだ。
国民の不信は、7カ月間に行われた地方選挙での民主党大苦戦の数字に端的に表れた。
昨秋、初対面のオバマ米大統領への「トラスト・ミー(私を信じて)」に始まり、3月末までに普天間移転政府案とした公約をあっさり撤回し、「別に法律で決まったことではない」と言い放つ。
どうも内閣総理大臣としては不適格な人物を選んでしまったようだ。
これを是正する機会は7月参院議員選挙だ。
自民党にも、平沼赳夫、与謝野馨、石原慎太郎各氏らの「たちあがれ日本」にも健闘してもらいたい。
早急に政治を立て直さなければ、日本の将来はあぶない。
鳩山内閣の危機管理体制への不安(2010.1.12)
前回記したイエメン、アルカイダの情勢。
テロや北朝鮮のミサイルの脅威、大災害など、国家危機管理を必要とする非常事態が起きたとき、鳩山内閣は対応できるのでしょうか。
これを機に、鳩山内閣の危機管理体制の脆弱性についていくつか論じてみたいと思います。
①双頭の鷲
組織にとって、頭(トップ)が2つあるということは、大変なマイナス要因です。なぜならば、命令が2途に出る可能性があるからです。
現在の民主党は、鳩山総理と小沢幹事長の、まさにツートップ体制。
藤井財務相の辞任の原因のひとつともいわれる、予算策定時の暫定税率問題。
藤井氏は本来、財源確保の観点からは「暫定税率維持」を唱える立場でした。
それでも、鳩山総理が掲げるマニフェスト重視の姿勢を尊重して、政府の一員としては「暫定税率低下」を主張したにもかかわらず、小沢幹事長の反発に屈した鳩山総理が自ら主張を撤回、暫定税率は維持されたのです。
これでは振り回された格好の藤井氏の口から「相当疲れた」という言葉がでるのも、むべなるかな、です。
内閣総理大臣の鳩山氏と、閣僚でもない党幹事長の小沢氏、国の政策を決定権はどちらにあるのか。そして、これが、国家危機管理の場で起きたらどうなるか。
指揮命令系統、責任の序列は一元化しておくことが、組織の原則です。
②命令・変更・混乱
これは、米国のアナポリス海軍兵学校に掲げられている格言のひとつです。
トップが、一度出した命令を訂正・取り消しをすれば混乱が起きる、つまり「朝令暮改はすべからず」ということです。
太平洋戦争中のミッドウェイ海戦。それまで連戦連勝していた日本海軍は、大きな戦力を保ってミッドウェイ作戦に突入しました。
当初は艦船攻撃用に108機を兵装していましたが、日本軍優勢からくる楽観と第二次攻撃も必要との情報から、指揮官である南雲提督は陸用爆弾の兵装に変更という命令を出してしまいました。
結局この命令変更により時間を費やしている間に、米軍の奇襲に遭い、日本は大敗北を喫したのです。
鳩山内閣も暫定税率(撤廃→据え置き)、子ども手当(所得制限しない→する→しない、財源は全額国庫負担→一部地方負担)、高速道路無料化(全線→一部)と変更を続け、普天間基地移設(県外→現行案、嘉手納統合も候補)については結論を先延ばしして迷走中です。
こんなことを繰り返し、国民の期待を裏切ってばかりいるから、内閣支持率が48%(12/21 朝日新聞)に急落したのです。
③不決断
危機に際してのトップの最大任務は、「決断を下すこと」です。
その決断とは常に2択で、「やる」か「やらない」か、「Yes」か「No」かしかありません。
鳩山総理は「最後は私が決める」と口癖のようにいいながら、普天間問題では「県民の思いを」と言いながら先送り、予算についても最終的に小沢幹事長の意見伺いをするなど、自身では何も決められません。
藤井財務相の件も、辞任の申し入れは12月22日にあったというのに年をまたいで1月6日まで決断をしませんでした。
「不決断」とは、誤った決断をするよりも悪く、大きなマイナスをもたらす可能性があります。
独ソ戦開始の際、ソ連は1日で1200機を失うというドイツからの奇襲を受けました。
そのときのソ連・ルイチャゴフ中将はモスクワへ請訓電報を打ちます。
「我、独軍の攻撃を受けつつあり、如何為すべきか」
ソ連国防人民委員会からの指示は「挑発に乗るべからず」。
ルイチャゴフ中将は前線で被害を目の当たりにしながらこの指示に従い何もせず、結果ソ連軍は潰滅し、その責任をとってルイチャゴフ中将は死刑に処されました。
危機に際して総理が決断できなければ、国民の生命・身体・財産は守れないのです。
④ネバー・セイ・ネバー
「決して~ない」とは、決して言ってはいけないという、戒めです。
鳩山政権が抱える3Kのひとつ、「カネ」の問題についての会見での発言で、鳩山総理は「何も知らなかった」「私腹を肥やしたことなどない」と否定の発言を繰り返しました。
小沢幹事長の献金問題でも、最近では元秘書の石川知裕衆院議員が「やましいところはない」と言い、昨年3月の西松献金問題の際には、小沢氏自身が「何らやましいことはない」「強制捜査を受けるいわれはない」を強弁し続けました。
もしも今後、新たな証拠がでてきたとき、どうするのでしょう。
阪神大震災の直後、当時の田中真紀子科技庁長官が職員に「原発は地震が起きても大丈夫か?」とたずねたところ、担当者は「絶対に大丈夫」と答えたそうです。
ところが震災後1年も経たないうちに、高速増殖炉「もんじゅ」の事故が発生しました。耐震技術どころかナトリウム漏出を防ぐ技術も万全ではなかったことが露呈したのです。
ものごとに「絶対」はありません。
予測不能なことに対しては、「決して~ない」ではなく、最悪に備えて留意して発言すべきなのです。
以上、4つの問題をあげてみました。
テロ・大事件のように、即断即決が必要な非常事態が起きたとき、いまの鳩山内閣の考え方ではとても対応できません。
2010年、国民を守るための大きな危機管理に目を向け、早急にその体制を整える年であって欲しいと願います。
年頭の御挨拶にかえて(2010.1.8)
明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いします。
先日行われたサッカーアジアカップ予選の最終戦、日本は見事勝利をおさめ、来年の本戦出場権を獲得しました。
しかし、試合が行われたイエメンは、昨年12月25日に起こった米国航空機爆破未遂事件に関与したアルカイダ系武装組織の拠点となっていた国で、年明けには各国大使館が一時業務を停止したり、イエメンの治安組織が武装組織メンバーを殺害するなど、まさに不安な治安情勢の中にありました。
今回の試合は軍や警察500人による警護の中で開催されましたが、日本が誇る第一線のサッカー選手たちが無事にプレーできて、本当に良かったと思います。
さて、アルカイダが再び活発になろうとする中、私は考えました。
もし、日本でこのようなテロの予兆があったら、また万が一にも非常事態が起きたら、鳩山内閣は危機管理対応ができるか・・・・。
1月7日、私は時事通信社・内外情勢調査会などが主催する新春恒例の新年互礼会に出席してきましたが、鳩山総理の約10分間のスピーチを聴いて、私は違和感を覚え、今の日本の危機管理に強い不安を覚えました。
スピーチの冒頭、2~3分を割いて、東京都の年越し派遣村を視察した際の話をし、その中で「憲法で保障される最低限のお暮らしというものを、政府としてもしっかりと見いだしていかなくてはならない」という発言をしました。
この方たちの生活の保障ももちろん大事です。
3食個室付きの生活を短い期間だけとはいえ提供された多くの入所者は、いまも仕事と住まいを求め、真剣に生きようと努力しているでしょう。
しかし、中には規律を破って酒盛りをしたり、都から支給された就労活動費を持ち逃げしたりした人がずいぶんいたとのことです。
この人たちに「基本的人権が保障されていない」と同情する余地はありません。
彼らをも救うことが第一ならば、母親から12億円もの献金を受け、6億円の納税を納めた、その資金力の一部でも寄付をした上でモノを言うべきではないでしょうか。
億万長者がホームレスに対して「基本的人権」を掲げて同情するそのスピーチは、非常に空々しく聞こえました。
1月6日付けの読売新聞社説に、鳩山内閣の重要テーマは「3K-景気、基地、献金」であると書かれています。
まさにその通り。
数百人のホームレスの人たちをたった一度だけ見て“国民目線の”発言をするより、国のトップとしてこの国全体の景気対策、日米同盟のあり方を見据えた政策をたて、そして自らと小沢幹事長の献金問題についてきちんと説明責任を果たすことこそ、今の鳩山総理に求められていることです。
国家危機管理の優先順位のつけ方は、リーダーにとって非常に大事なことです。
12月21日には米国でクリントン国務長官が藤崎一郎大使と普天間問題について会談をしました。
報道どおりクリントン長官が呼び出したのか、実際は藤崎大使が出向いたのか定かではありませんが、普天間問題はそれがニュースとなるだけ深刻な事態だということです。
この危機が、鳩山総理には理解できないのでしょうか。
このような中で、冒頭に記したようなテロの危険がわが国に起こったら・・・ホームレス対策で年頭スピーチの多くの時間を費やすような総理に、国家危機管理はできるのでしょうか。
続きは次回述べます。
2012年
2011年
2010年
2009年
2008年
2006-2007年
2004-2005年
それ以前
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